TCFD最終提言への対応

松井建設グループでは、2022年度(2023年3月期)を初年度とする3ヵ年の『中期経営計画〈2022-2024〉』を新たに策定し、「持続的成長の実現」「本業の磨きこみ」「450周年へ基盤拡充」を柱としました。このうち「持続的成長の実現」に関わる重要項目の1つとしてカーボンニュートラルを掲げ、パリ協定やCOP26を受けた世界的な1.5℃目標合意など、気候変動対応はサステナビリティに関する諸課題の中でも特に重要な課題の1つであると認識しています。これを受け当社グループではTCFDフレームワークを活用した気候変動リスク及び機会の特定及び対応策の策定と経営戦略への統合が、当社グループの持続的成長と企業価値向上に資するものと考え、TCFDガイドラインに即した情報開示を進めております。シナリオ分析を通じた気候変動によるリスクと機会の特定評価及び対応策の検討を通じた当社グループの気候変動課題に対するレジリエンス性の強化を図ると共に、カーボンニュートラルの達成と持続可能な社会の実現を見据えた価値提供を目指し、貢献してまいります。

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ガバナンス

松井建設グループは、気候変動をはじめとするサステナビリティに関連する方針を策定する機関として、社長を委員長とした経営層をメンバーとする「サステナビリティ委員会」を設置しております。

「サステナビリティ委員会」は原則年1回開催し、気候関連課題への対応、サステナビリティ推進に関わる具体的方針の策定、社内啓発・教育および中期経営計画への反映等に関する事項の審議決定を行います。決定事項については必要に応じて経営会議で審議・検討され、重要事項については取締役会に付議し、決議されます。

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戦略

気候変動によって自社が被るリスクと機会の特定及び評価と対応策の検討にあたり、松井建設グループではIPCCやIEAが公表するシナリオを用いて、産業革命期頃の世界平均気温と比較して2100年頃までに4℃上昇する4℃シナリオと、パリ協定並びにCOP26での世界的合意を踏まえた1.5℃目標の達成を前提として、気温上昇が抑制される1.5℃シナリオ(2℃未満シナリオを含む)の2つのシナリオを設定し、それぞれの世界観における2030年時点での当社への影響について分析を実施しました。

4℃シナリオにおいては台風や大雨をはじめとする異常気象の激甚化に伴う物理的リスクが拡大することによる直接的な被害が想定されるほか、慢性的な気温上昇により屋外での労働環境悪化による熱中症リスクの拡大や生産効率の低下をはじめとした影響を認識しています。一方で、気象災害の被害防止・抑制を見据えた、防災減災工事需要の拡大も見込んでおり、事業機会ひいては社会貢献の可能性の1つとして捉えています。

1.5℃シナリオでも4℃シナリオと同様に物理的リスクが拡大する可能性も確認しているほか、脱炭素化への移行に向けた取り組みによる影響が大きくなると想定しており、炭素税の導入や再生可能エネルギー発電の導入による電力価格の高騰をはじめとした支出増加、サプライチェーンにおける同様の影響からのセメントや鉄原材料のコスト増が想定されます。一方で、省エネ・再エネ需要の拡大からZEBの普及や再エネ関連工事の増加が見込まれ、積極的な関連工事への参画による事業機会を確認しています。

項目 2030年における影響 現在の取り組み、対応方針
種類 事象 4℃ 1.5℃
(2℃未満)
シナリオ シナリオ
移行リスク リスク 政策・規制 ◆日本国内での炭素税の導入による支出増加
◆建設リサイクル法など資源循環規制の強化による対応コスト発生
▶建設時のCO2排出量の削減目標設定及び削減努力の推進
▶全事業所及び作業工程における省エネ化の実施
▶一部拠点への非化石証書付き電力の導入
▶建設副産物の低減
▶3R運動、ゼロエミッション活動の実施
市場 ◆石油需要の変化や炭素税の導入による原材料価格の高騰
◆原油価格の上昇による燃料コストの高騰
▶グリーン調達、グリーン購入の実施
機会 製品/サービス ◆ZEB、ZEH需要の拡大
◆再生可能エネルギー由来発電需要の拡大
▶バリューチェーンを通じたZEB・ZEH-Mの推進
▶大規模木造技術、CLT工法の推進
▶オンサイトPPAモデル事業の拡大
物理リスク リスク 急性 ◆自社拠点の被災による損害及び損失の発生
◆サプライチェーンの寸断
◆台風や豪雨・豪雪による工期の遅れ、営業停止
▶事業継続計画の策定と見直し
慢性 ◆熱中症危険の増大と屋外作業効率の低下
◆豪雨日数の増加に伴う工事遅延
▶安全衛生方針の策定と管理徹底
機会 レジリエンス ◆防災・減災・復旧工事など適応ニーズの拡大
◆気象災害等による災害復旧への貢献
▶補強、環境整備工事の請負
▶復興工事の積極的参画
参考元シナリオ 4℃シナリオ ・IPCC AR5 RCP8.5 , RCP6.5
・IEA WEO2021 Stated Polices Scenario
・The 2°Investing Initiative/Limited Climate Transition Scenario
1.5℃(2℃未満)
シナリオ
・IPCC AR5 RCP2.6
・IEA WEO2019 Sustainable Development Scenario
・IEA WEO2021 Net Zero Emissions by 2050 Scenario
・The 2°Investing Initiative/Ambitious Climate Transition Scenario
評価指標 大:中期経営計画における2024年度の営業利益目標に対して、±3%以上の影響があるもの
中:中期経営計画における2024年度の営業利益目標に対して、±3%未満の影響があるもの
小:影響無し、もしくは極めて影響が小さいもの ※定性的な分析を行っている項目についても、上記閾値をもとに各参考元シナリオで報告されているパラメータ等を参考にインパクト規模を想定して評価。

これら分析結果に対する現在の取り組み状況として、リスクの回避及び緩和に向けた取り組みでは、カーボンニュートラルへの取り組みとして建設時のCO2排出量の削減やグリーン調達、本社ビル照明のLED化に随時取り組んでいるほか、2021年度には当社初のZEH-M建物が完成し、一般社団法人環境共創イニシアチブが公募する「ZEHデベロッパー」に登録されております。また異常気象災害の激甚化による作業所の防災対策や従業員の安全管理についてはBCP対策の策定と定期的な見直し、定期的な大規模災害を想定した訓練を実施するなど、対策を強化しています。今後は中期経営計画でも見据えるカーボンニュートラルの達成に向けてより環境配慮の取り組みを強化すると共に、気候変動に対するレジリエンス性の強化に努めてまいります。なお、年次での個別具体的な取り組みについては統合報告書にて報告しています。

リスク管理

松井建設グループでは、気候変動をはじめとしたサステナビリティに関するリスクの特定と対策の立案について、サステナビリティ委員会がその一連のプロセスを統括管理しています。気候変動リスクの特定については、シナリオ分析を通じて特定したリスクを、SDGsに纏わる諸課題とも相対的に評価した上で取締役会に報告することとしています。特定された重要課題の管理にあたっては、サステナビリティ委員会が事務局となり、経営会議を通じて各部門や各グループ会社へ指示監督とモニタリングを行うことで、リスクの未然防止や損失の最小化に努めております。

指標と目標

松井建設では、中期経営計画における重点項目の1つであるカーボンニュートラルの達成を見据え、部門別に年度ごとの目標値を設定して取り組んでいます。CO2排出量の削減についてはパリ協定を踏まえ、政府並びに国内経済界の動向と足並みを揃える形で全体目標を設定し、各部門の業務特性に合わせたアプローチによる目標達成を目指しています。なお、中長期的な目標として、2030年に施工部門のCO2排出量を2013年度比40%削減(当社2013年度7,503t-CO2)を設定しております。年度ごとのCO2排出量の削減目標とその進捗については、統合報告書にて年次で報告を行っております。今後は、CO2排出量の削減目標を当社の環境経営の指標の1つとして、その進捗を追ってまいります。なお、直近年度のScope1,2は以下のとおりです。

Scope1,2(t-CO2)
2023年度
Scope1(t-CO2) 4,425
内訳 作業所 4,337
事業所 88
Scope2(t-CO2) 907
内訳 作業所 765
事業所 142
Scope1+2(t-CO2) 5,332

※Scope1,2算出においては建築工事を対象としております。

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